ミラノダービーに込められたカルチョの美しさ
ミラノダービー開始前、僕には一抹の不安があった、大舞台での得点力の高いラウタロとここぞと言う時に護ってくれる守護神ハンダノビッチの不在があったからだ、さらに3CBの一角を担うバストーニも欠場しており、チームが果たして安定して試合を運べるのか1つ不安要素であった
多くの記事の下馬評ではインテルが優勢という記事が多く、インテルとミランでは現状の戦力で見てもインテルに分があることは確かであった。
しかし、そんな下馬評など簡単にひっくり返してしまうのがダービーと言うもの、特にミランにはこの冬イブラヒモヴィッチという王様が帰還し、彼が復帰したあとの試合は6試合負け無しと好調、圧倒的な勝者のメンタリティをミランにもたらしていた
今回、インテルは勝てば首位に並ぶ大1番、ミランはこれ以上負けは許されず、このままのノリでダービーも圧勝しよう、という構図でのミラノダービーだった。
・絶望のインテルと赤黒の王様
試合の前半は完全にミランのペース、チャルハノールをはじめとし、テオエルナンデス、レビッチ、カスティジェホ、イブラヒモヴィッチが密に試合に絡んでいき、敵ながらその流れるような攻撃に魅了される程の圧倒的な内容だった。その試合の中心となっていたのは間違いなくイブラヒモヴィッチだっただろう、彼にボールが入れば何かが起こる、彼にクロスを上げれば何かを変えてくれる、そんな圧倒的な信頼感をミランというチーム全体から感じられた
ミランの攻撃はシンプルかつ驚異的でテオ、カスティジェホの個人技で敵陣を切り裂き、最後はイブラに合わせるという戦い方だ、それだけなら我々も対応出来ていたはずだが、これを難しくしていたのがチャルハノールの上手さとミラン両SBのコンパクトな守備だった。
このチャルハノールの上手さによってインテルは中盤でボールを回収することが出来ず、さらに得意のサイド攻撃は尽く潰され、挙句カウンターを食らうという、まさにミランの術中にハマってしまった形となった。
そしてミランの先制点、ロングフィードからイブラが落とし、最後はレビッチが決めた、さらに前半終了間際にはインテルの心を折るかのようなコーナーキックからのイブラのヘディングで2点目、まさにイブラヒモヴィッチのワンマンショー、彼のプレーによってミランの選手たちは躍動し、不調だった選手たちは見違えるようにその輝きを蘇らせたような前半だった。
一方インテルは防戦一方、中盤では競り負け、攻撃は上手く機能せず、完全にミランに呑まれていた、イブラヒモヴィッチという圧倒的な王の前にディフェンスラインが後退し、完全に萎縮してしまった。
インテルにとっては地獄のような前半だった
・代えなかった血液、変わった心臓
前半の内容を見れば明らかに交代カードを早々に切ってもいいような状態だった、特にバレッラとべシーノは完全に沈黙し、居たのかどうかすら分からない始末、私は彼らのどちらかを交代すべきだと思っていた、だが代えなかったことがこの試合を大きく分けたということはこの試合が終わってから痛感することになる。
後半に交代カード無しと判明した時、僕には絶望感があった。コンテはここまで臆病な監督だったのかと失望までしてしまったほどに、だが彼は臆病だったのではなく、敢えて代えなかった、その事を理解したのはインテルの脳であり心臓であるブロゾビッチの躍動を見てからだった。
後半は多少ボールは繋がるようにはなったものの、なかなかフィニッシュまで持っていけないという展開が多かった、サイド攻撃も機能するようにはなったがほぼ繋がらない、これは悪い時のインテルお馴染みの展開だった、これは交代カード切るまで変わらない...そう思っていた時
この試合のキャプテンを務めていたブロゾビッチ、前半はほとんどボールを持つことも無く守備に忙殺されていたが、後半51分、カンドレーバのクロスからこぼれてきたボールを左足ミドル一閃、ミランのゴールに突き刺した、このゴールからチームの心臓は動き出した
1点目を取ったあとはブロゾビッチが躍動、心臓の活動が活発になるに連れてその運動を激しくするバレッラとべシーノというインテルの血液たちがピッチを縦横無尽に駆け回る、ブロゾビッチのプレーに応える形でバレッラとべシーノの動きも見違えるように変わっていったのがわかった。
そして2点目、ゴディンの縦パスからサンチェスのオフサイドギリギリの絶妙な抜け出しでミランの守備陣を置き去り、そしてべシーノがサンチェスの華麗なお膳立てをあとは蹴り込むだけのゴールだった。
サンチェスとゴディン、共にビッグクラブで戦い抜いてきた歴戦の戦士たちの経験値の高さが垣間見えた一瞬だった。そしてゴールを決めたべシーノ、彼はいつも大事な試合で決めてくれていた、その大1番の強さから「ミラクル」と称される事もあるが、このプレーを可能にするのは彼の無尽蔵のスタミナがあっての事、ここまで走り抜き、最後には決めていく、もはや彼のプレーはミラクルではなく必然の産物であるということは間違いないと思った。
そして逆転の3点目、コーナーキックからデフライのヘッドで逆転、前半は2失点と心が折れてしまうような内容であったにもかかわらず、勝つための姿勢を最後まで切らさないデフライのメンタリティには圧巻の一言、勝利への執念が見せた一撃だった
・試合を調律するマエストロ
逆転ゴールの直後、サンチェスを下げエリクセンを投入した、これだけチームがノリノリな状態の中、熱くなった脳を冷ますかのごとくエリクセン試合を冷静にコントロールした。
まずエリクセンは前線で積極的にボールの近くでプレーする姿が印象的で、彼が多くボールを触ることでチーム全体にこの交代の意図を説明するかのようにエリクセンがボールを回し始める
次第にチームは落ち着きを取り戻し、エリクセンにボールを預けながら密にコミュニケーションを取っていた、それはさながら演奏者のリズムをコントロールする指揮者のごとく、チームを支配した
3点とったあとのインテルは暴走する血流から一転、まるで平静を保つかの如く安定したゲーム運びをしたブロゾビッチという熱くなった心臓をクールダウンさせるかの如くエリクセンが代わりの心臓を務める形となり、試合を終わらせる体勢に入った
・勝利への執念とリアリズム
エリクセンがボールを持つ事で試合はまた変化した、ボールはよく回るようになり、セットプレーに関してもエリクセンはゴール左角のポストを叩くような強烈なフリーキックを蹴り込み、会場を騒然とさせる。ミランの中盤はほぼ沈黙、もはやプレーすることさえ許されなかった、中盤の沈黙に合わせてミランのFW陣も沈黙、王様イブラも後半は完全になりを潜めていた。
しかし後半も終盤に差し掛かった時、ミランのチャンス、パケタのクロスからイブラが高い打点のヘッドで合わせたがポスト直撃のプレー、得点への執念と勝利への執着心、イブラのメンタリティの高さが垣間見えた瞬間であった。
試合終盤、べシーノが相手のコーナーフラッグ付近でボールをキープ、ローリスク時間を稼いで試合を終わらせる作戦に出た、これに痺れを切らしたミランがボールを奪いに来たところを見てモーゼスが抜け出し、あとはルカクにクロスで合わせて4点目、トドメとなるゴールが決まった。
ルカクはここまでほぼ脇役に徹し、カウンターの起点やポストプレー、囮のプレーなどチームへの献身的なプレーを見せていた、このゴールはそのプレーへのご褒美とも言えるゴールだっただろう。
このゴールで試合終了、ミラノダービーは4-2でインテルが勝利を収めた
・味方も敵も触発させる王のメンタリティ
結果的にはインテルの勝利で終わったわけだが、この試合全体を通して1人の選手の存在感があまりに大きかったことを認識した
それがイブラヒモヴィッチである。彼のプレーによってミランの選手たちは躍動し自信をつけ、全員で勝利をめざして戦う姿を前半でまざまざと見せつけられた。
だがイブラのメンタリティは味方だけに与えられるものでは無い、イブラはミランだけでは無くインテルの選手たちにもそのメンタリティを触発させてしまったのである
後半の逆転劇は正に、イブラヒモヴィッチからインスパイアされた勝利への執着そのものであったと思う
イブラの持つカリスマ性は味方だけではなく敵すらも変えてしまうような圧倒的な影響力を持っていた、その危険性をイブラ自身も理解していなかったのだろう
今回のミラノダービーはより個を意識させられた試合であった
・カルチョの美しさ
試合全体を一言で総括するならば「この試合を45分見ればミラニスタになる、90分見ればインテリスタになる」そんな試合だったと思う、これこそがカルチョの魅力であると僕は思う、試合がハーフタイムを隔てて容易に別物に変容してしまうこの異質さがカルチョの脅威であり僕を虜にしてやまない
このミラノダービーは昔から伝統と格式あるビッグマッチであり、その重みは他の試合とは比べ物にならない、カルチョにはミラノダービーの他にもこういった独特の空気感で戦うダービーが多く存在するので、この試合をきっかけにセリエの試合を追ってみたいと思う方は是非セリエの試合を見てくれることを願う
何か試合を見るにあたって応援するチームがあると見やすいと思うので、まずはインテルを応援するところから始めて下さい(インテリスタ並感)
ここまで長いブログを読んでいただきありがとうございました。
これからもどうかよろしくお願いします